ビジネス時事通信Vol.8…【今考えるべき「堕落論」】
今考えるべき「堕落論」
1946年、終戦間もない戦後の日本で坂口安吾はこう一喝しました。
「堕落せよ」
みなさまは坂口安吾の著書「堕落論」を知っていますでしょうか?
私は最近は日本全体がいびつに歪んでいると思っており、
原因を考えるにあたり、この「堕落論」にぶつかりました。
一人でも多くの方が「堕落論」に触れて、今の自分を見つめなおすきっかけになればと思い、このビジネス時事通信の中でご紹介します。
社会で生きていくうえでこういった世の中の仕組みを理解しておくことが大事だからです。
坂口安吾の「堕落論」は、太平洋戦争の翌年に発表されました。
戦後の希望を失った日本に生まれた名著です。
内容はいわゆるエッセイなのですが、
支配のカラクリについて本質を突いている今の現代人が知っておくべきものです。
戦争の最中、日本人の生活は苦しいものでしたが、
国民一丸に戦い、その姿は美しいものでありました。
戦争に敗れ、全ての人は堕落したと安吾は指摘しました。
しかし日本人は何から堕落したのか?
そのカラクリについて安吾は解き明かします。
「人間はそもそも堕落する存在である」「正しく堕ちきることこそ、我々が救われる道である」と、
安吾は解きました。なぜでしょうか?
「戦時中の日本は理想郷だった」と安吾は言います。
多くの国民は徴兵され戦い、女性は軍需工場で兵器を作り、学生まで動員。
泥棒などの犯罪も起きず、食料は配給でありながら国民が一丸となっており、
戦時中は虚しい美しさに溢れていました。
戦争は皆さん知っているとおり、
日本は敗れましたが、そこに登場する自ら命を捨てながら特攻する隊員など、
日本の精神性は異常を極めました。
ただ、根性だけでは戦争には勝てなかったのです。
敗戦後の日本はアメリカの統治下におかれました。
戦争が終わっても日本人の生活は厳しいものでした。
食料を確保するためにかつての特攻隊員は違法な「闇屋」になりました。
戦争で夫を失った未亡人は悲しむどころか新しい男と恋を始め、
生活苦から米兵相手に体を売る女性も現れました。
敗戦によってほぼすべての日本人が堕落しましたが、
人間の本質が変わったわけではないと安吾は説きます。
「戦争に負けたから堕ちるのではなく、人間だから堕ちるのだ」
安吾は戦前の日本人と戦後の日本人が何によってコントロールされているのか考えます。
そこに支配者の存在を見つけます。人間が何の理由もなく支配者に従うことはありません。
安吾は、日本における支配のカラクリを考察しました。
武士道的支配
日本独自の支配関係です。
武士は命を懸けて主君に従うべきといった、現代でいうところの「親の言うことは絶対」に類似した思想です。
天皇制による支配
「天皇制はきわめて日本的な政治的作品」と指摘。
天皇制は天皇が生み出したものではなく、「私は神様の子孫である天皇に任命されて将軍になった。だから私の命令に従え!」ということにして、支配者がその権威を正当化するのに用いられました。
これは平安時代から続く日本の支配方法です。
太平洋戦争の始まりも、支配者が「天皇が開戦を決めた」として国民を動員、「天皇が降伏を決めた」として、
負けることにしたのです。
安吾は、「支配者のみならず、国民全員が天皇を利用して自分をごまかしている」として、一喝しています。
実は支配されている側も支配されていることを利用していたのです。
戦後の日本は日本国憲法を制定。支配の体制を憲法や法律が根拠となる合法的支配に移行しました。
しかし結局は支配を正当化する根拠が変わっただけに過ぎません。
「人は支配のカラクリなしには生きられない」
「人は永遠に自由ではありえない」と指摘します。
戦後、人々はあらゆる自由を許される反面、不可解な不自由に気付くことになります。
「民主主義」「ヒューマニズム」
そこから救われるには自分自身の武士道、天皇を編み出す。
そのために「正しく堕ちる道を堕ちきることが必要である」と説いています。
よくよく皆さんも考えてみてください。
あなたを支配しているものはなんですか?